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2009年3月 5日 (木)

 「逝きし世の面影」

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「逝きし世の面影」(2005 年初版)が各界の評判を取って4年になる。「日本奥地紀行」で有名なイザベラ・バードの著作と同じ平凡社ライブラリーに入っているので書店で簡単に手に取ることが出来る。

この「逝き世の面影」は渡辺京二が幕末に日本を訪れた欧米人の目に映った幸福な庶民の生活記録を丹念に集め、一部は自ら再翻訳も行い編集出版したものだ。

この本に描かれた鎖国時代を生きた江戸期の庶民の生活は、従来の重い年貢に苦しむ下層階級と言うイメージから程遠い。豊かではないにしても、清潔な衣服を身に着け、充分な栄養を取ってる庶民たちの暮らし。家具も無く極めて簡素だが、季節の花々で飾られた快適な住居に住む勤勉な庶民の生活。その以外な姿が欧米人の手で鮮やかに描かれている。

あまり豊かではないと書いたが、天領の農民は見回り役人の数も少なく、年貢割合も据え置かれている場合が多かっから大名支配下の農民より比較的豊かだったのだろうという外国人達の観察も見える。

意外に思ったのは庶民階級の夫がよく子供達の面倒を見ているという描写についてだった。兄弟、姉妹が必ず幼児を背中に背負って遊んでいる。兄や姉が妹、弟の世話をして生きている。いずれにしろ、子供達はみんな愛情深く育てられている。

鎖国が社会を安定させていた、皆質素な為か、貧富の差の少ない江戸期の庶民達。それなりに充実して彼らの生活を驚嘆の眼で見ているヨーロッパ人達。彼等は19世紀後半の産業革命で生まれた圧倒的貧困を目撃している。極貧に喘ぐ最下層の労働者達を自国イギリスやフランスで日常的に眼にしていたからだ。

ほぼ、同時代にロンドン貧民街で持たざる者達に深い同情を覚えながら、マルクスは「資本論」を書き始める。パリ・コンミューンは1971に勃発している。

日本にも工業化社会の元で圧倒的貧困層が明治維新後発生してくる。時代の波が押し寄せる前の束の間の楽園がそこにはあった。それは性的な放埓さをも意味する楽園だが、社会的政治的責任も果たさずいられた庶民の楽園は長くは続かない。それはヨーロッパ人も予測し、書き残している。

参考書籍

「逝き世の面影」渡辺京二 平凡社ライブラリー 2005 2007

「日本奥地紀行」イザベラ・バード  高梨健吉訳 平凡社ライブラリー 2000/02

「日本奥地紀行を読む」宮本常一  平凡社ライブラリー 2002

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